今回は、おすすめ映画の紹介とかでなく、2018年に書いてあった映画の感想文です。
ここ数日、オランジーナのCMを何度か目にし、とてもうれしい気分にさせてもらった。
ヴァンサン・カッセルが登場し、失恋の後で炭酸飲料を飲んで「セ・ラ・ヴィ」と言うCMだ。
若いころにはいつも眼光がギラギラして、ヴァイオレンスが過剰な乱暴者ばかり演じていたフランスの俳優が、優しく内気そうな中年男になり、ほろ苦くすらないさっぱりした失恋シーンをオシャレに演じているのが、時の流れを感じながらもとても懐かしく感じた。
私は、独身だったころは映画―とくにフランスの―が大好きだったのである。
そういえば、ヴァンサン・カッセル、日本でもポピュラーな人気を得たのだろうか。
最近、TUTAYAに行くのが面倒に思っている我が家で、妻がネットフリックスの会員になった。
それで、この週末は、このネットサービスで視聴できる映画のリストを閲覧するのにずいぶん夢中になってしまった。
基本月額で視聴できる映画が思ったより少なく、また新しい映画が多いラインナップの中で、大ヒットした「アメリ」を見つけた。
私は以前からずいぶんヒネた性格で、大ヒットした映画はなかなか素直に楽しめない。
この映画はすでに他の人々に十分に享受されているのだから、私まで楽しんでしまったら過剰な評価だなどと思うのかもしれない。
とにかく、興行的な大成功を納めたというだけで、なにかあら捜しをする目で視聴してしまう癖があった。
だから、「アメリ」もずっと見ていなかった。アメリは2001年公開とのことだから、ちょうど私が映画をあまり見なくなり始める頃の映画でもあった。
今回はじめて「アメリ」を見て、とてもうれしい気持ちになった。
そもそも、暖色にフィルターした映像の中で蠅が車にひかれて大量の血を出したり、子供が肌に描いた顔の絵を動かして遊んだりしている多少グロテスクな冒頭のシーンに、すでに夢中になり始めていた。
タイトル画面の後で、登場人物たちのずいぶん非現実的で寓話的な人となりを紹介するナレーションに、大変ワクワクする気持ちにさせられた。
昔、やはりビデオで見て、大好きになった「ふたりのベロニカ」という映画があった。
「アメリ」より10年ほど前の映画で、私はこの映画にはとても夢中になり、映画監督の自伝まで購入して読んでみたりした。
「ふたりのベロニカ」を撮ったキェシロフスキー監督は、言葉では到底表現できない感情を、映像で直接的に表現したいといったことを書いていたと記憶する。映像でしか表現しようがない感情というのがある、というようなことでもあった。
当時はすこし流行り始めていたフィルターをかけて撮影する技法が、私にはとても斬新でショッキングに見えたし、同時に主人公の心情や気分を伝えるのに大いに役に立っていると思った。
「ふたりのベロニカ」は、アメリカでもヒットしたとのこと―もちろん、興行的には当時の大アクション路線の映画とは到底比ぶるべき規模でないけれど―だったけれど、それほどメジャーな知名度はない。みんながあまり観ていない中で私も含めた少数の人たちが鑑賞し感動していると思えるひそかな楽しみもあった。
「アメリ」を見ていて、しきりに「ふたりのベロニカ」を思い出した。
2つの映画とも、カメラに暖色系のフィルターをかけて撮影された暖かい映像の中、寓話的な物語が進行する映画であった。
どちらも、少女の面影の残る若い女性が、空想といってもよいような豊かな想像力で現実をしなやかに理解しながら生活している様がとても魅力的だと思った。
そして、男性との出会いまでのまどろっこしいほどに多い逡巡とすれ違いや、主人公たちが出会う複雑でときに醜悪な現実が過剰に演出されているところまでそっくりだと思った。
ただ、「ベロニカ」が始終静謐な画面が魅力だったのに対して、「アメリ」はとてもユーモラスで、別個な魅力があった。
「アメリ」についてもう一つ、大変うれしく思ったのは、マチュー・カソヴィッツが準主演級で出演していたことだ。
カソヴィッツは1990年代に「憎しみ」という映画を撮った映画監督で、この映画で自身も、冒頭に話題にしたカッセルも注目を浴びたのであった。
その後も、二人はニコール・キッドマン主演の「バースデー・ガール」で仲良く脇役を務めていた。映画館で観たこのハリウッド映画はあまり売れなかった模様だったが、私には2000年代の映画の中では、もっとも面白かった映画のひとつである。
「アメリ」はパリが舞台である。
「ふたりのベロニカ」も、パリで撮ったシーンがあった。
私は4回しかパリを訪れたことがないが、そのたびに映画にでてきた風景を訪れてとても幸せな気持ちになる。
はじめてパリに訪れたときは、「ベロニカ」に出てきたラザール駅のあたりをとても幸せな気持ちで散策した。
モンパルナスに滞在していたときに、エリック・ロメールの映画で見たことのあったロータリーを思いがけずに通りかかり、とてもうれしい気持ちになったことがあった。
「アメリ」で同じロータリーをマチュー・カソヴィッツがスクーターでドライブしているシーンが出てきたとき、とてもうれしくなった。ロメールの映画でも、女優がスクーターでこのロータリーを廻っていた。
こんなに映画を楽しんだのは、ずいぶんひさしぶりだった。
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