ベトナムの中部の都市クイニョンの周辺には、チャム塔(チャンパ遺跡とも)と呼ばれる地方特有の遺跡が点在しています。
本記事では、2024年夏に見学して廻った3カ所のチャム塔を紹介します。
どれも素晴らしい見ごたえの遺跡で、遺跡観光が好きな人にはおすすめです。
- タップドイ Thap Doi Twin Towers (Tháp Đôi)
- 銀塔 Banh It Cham Towers (Tháp Bánh Ít)
- 象牙塔 Duong Long Towers (Tháp Dương Long)
チャム塔はレンガ造りの塔で、12世紀ごろに建設されましたが、高さ30メートルほどの巨大なものもあります。
クイニョン市街にあるビンディン博物館(Binh Dinh Museum)には、チャンパ文化の石像が多く展示されています。
合わせて見学するのがおすすめと思いますので、本記事で一緒に紹介します。
チャム塔(チャンパ遺跡)とは
ベトナムの歴史や遺跡については、まだ日本語で(英語でも)解説が少なく、情報が見つけにくいです。以下、私がネットで調べた要点を、簡単にまとめます。
チャンパ王国
阮朝がベトナム全土を統一する1832年までは、ベトナム中部はチャム族が治めるチャンパ王国として独立していました。チャンパ王国は192年建国ですから、とても長く続いた王国です。
現在のベトナムの約1億人の人口は80%以上をキン族が構成しており、チャム族はわずか18万人の少数民族となっています。
チャンパ王国支配域に点在するチャム塔(チャンパ遺跡)
チャンパ王国の支配域では、レンガを積み上げて造ったチャム塔(チャンパ遺跡とも呼ばれる)が各地に建てられました。
祭祀や宗教儀式に使用されていたと考えられています。
ダナン郊外にあるミーソン聖域に7~13世紀に建立されたチャンパ遺跡が、世界遺産として登録されています。
クイニョンの郊外にも、12世紀ごろに建立されたチャンパ遺跡が点在しています。全部で7カ所あるそうです。
本記事では、私が訪問した3か所を紹介します。ネット上の情報をもとに、アクセスの利便性と見ごたえを天秤にかけながら選んだ3カ所です。
ヒンドゥー教の影響を受けた石像
チャンパ王国の文化は、ヒンドゥー教の影響を受けました。チャンパ遺跡からは、ヒンドゥー教の神々の石像が発掘されています。
クイニョン市街地にあるビンディン博物館には、クイニョンの属するビンディン省で出土した石造が展示されています。
本記事でも紹介する象牙塔(Duong Long Towers)で出土した石像も多く展示されており、遺跡観光と合わせて見学するのがおすすめです。
タップドイ Thap Doi Twin Towers:市街の喧騒の中、静かにそびえる2基のチャム塔
クイニョン市内の便利な立地
タップドイは、クイニョン市街地の北の端にあります。
ビーチ沿いのホテルが多いエリアからでも4㎞ほどなので、タクシーや配車アプリを利用して観光するにも便利な立地です。
公園のようになっていて、敷地のなかは周りの町の喧騒が嘘のように静かです。
入場料と混雑具合
私が訪れたのは、夏の土曜日の夕方。入場は無料でした。
私が過ごした20~30分くらいの間に、観光バスが2~3台来ました。そのたびに20人ほどの観光客が見学する感じで、便利な立地にしてはまずまずゆっくり見ることができました。
タップドイの重量感
高さ20mの2本の塔は重量感があります。
東南アジアにレンガ文化があったのを知らなかったこともあり、900年を経た異文化の遺産とはじめて対峙する感動は大きかったです。
細部の装飾
装飾は崩落している部分も多いですが、何か所か奇麗に残っているものもあります。
内部の様子
内部は5メートル四方くらいの部屋になっていて、左の塔には仏壇が、右の塔には仏塔(なのでしょうか)が祭られています。
天井は空洞で、空が見えました。
銀塔 Banh It Cham Towers:眺望がよい高台の美しい4基の塔
空港から市街へのドライブで見えるチャム塔
銀塔は、クイニョン市街から北へ20㎞ほどのところにあります。
クイニョン市街とフーカット空港のちょうど中間ほどに位置し、空港からクイニョン市街への向かう途中で左の丘の上に見えるチャム塔です。
よく整備された遺跡
2024年夏の入場料は、15,000VND(ベトナムドン)でした。10,000VND=60円の為替レートでは、90円くらいです。
次の写真のような立派な建物の前で入場料を払ったあとで、整備された階段を上って塔に向かいます。
両脇にお墓や仏塔がある中、階段を上っていきます。
銀塔(Banh It Cham)は4基の塔からなる遺跡
Banh It Chamは、ゲート塔、主塔、鞍塔、東塔の4基の塔からなる遺跡です。
主塔は高さ30メートルもあり、とても大きく美しく、威厳がある塔です。
銀塔の内部
ほかの3塔の内部は空間があるだけですが、主塔の内部には、シバ神の像が安置されています。
同じ主塔の天井には、コウモリが住み着いていて、鳴き声を響かせながら飛び回っていました。
高台の素晴らしい眺望
銀塔は高台にあります。塔といっしょに素晴らしい眺望を楽しむことができます。
現役の宗教施設として
私が訪れたのは、2024年夏の日曜日でした。
私が到着したときには、ちょうど法要が行われている最中で、主塔の中からお経を読む声が朗々と響き渡っていました。
30分くらい遺跡で過ごしましたが、その間に見かけた観光客は5~6人くらい。
静かに遺跡を見ることができました。
象牙塔 Duong Long Towers:最大38mの3基の巨大塔に圧倒される
クイニョン市街地から片道40㎞の立地
クイニョン市街地からだと40㎞ほどの道のりです。
クイニョン市街からの道中は、広い水田が広がる田園地帯をドライブします。
フーカット空港からは12㎞で、空港に近い立地です。
入場料と混雑具合
私が象牙塔を訪れたのは、2024年夏の日曜の午後。
入り口で入場料を支払いました。金額を正確に覚えていませんが、100~200円くらいな感覚です。
見学していた30分ほどの間に、私以外の観光客は1人だけ。
ほとんど貸し切り状態で、とてもゆったりと遺跡を満喫できました。
30~40mの3基の巨大塔の存在感に圧倒される
3基の塔の高さは、左の塔が32メートル、右の塔が33メートル、真ん中の塔は38メートルとのことです(サイトによって高さ記述バラつきあり)。最大級のチャム塔とのことですが、巨大さには圧倒されます。
建立は12~13世紀とのことですから、800~900年前によくもこんな大きな建造物を作ったものです。屋根の上から雑草が茂ってしまっていることも、生命力旺盛な東南アジアの古い遺跡であることを思い出させます。
落石注意の保存状態
塔から落石することもあるらしく、塔に近づきすぎないよう注意書きがあります。
落ちかけている石をロープで留めて保全している箇所もありました。
右の塔は、入り口が崩れはじめてしまっています。中を覗くと、空っぽでした。
素晴らしい装飾と彫刻
塔の壁の上の方には少し風化してしまっていますが、蛇や動物をかたどった彫刻が見えます。
これらは、隣の塔に向いた面に彫られているため、近づくこともできず、正面からじっくり見ることもできないのが残念でした。
塔の向かいには、石が柵のように積み上げられています。
柵の先頭には、蛇の神ナーガの彫像が安置されています。
象牙塔遺跡では彫刻が多く出土しており、ビンディン博物館ではそれらが展示されています。
チャンパの彫刻が多く展示されているビンディン博物館
クイニョン市街地の便利な立地
ビンディン博物館(Binh Dinh Museum)は、クイニョンの市街地にあります。
観光客向けのホテルが周りに多いクイニョン・スクエア(Quy Nhon Square)からは海岸沿いに東に1.7㎞ほどです。
入場料と混雑具合
私が見学したのは、2024年夏の月曜日の午前。
館内を見学している人はほんの数人で、静かにゆったりと見学出来ました。
入場料は、100~200円ほどの感じで安かったです。
チャンパ文化の彫刻展示
クイニョン市が所在するビンディン省で出土したチャンパ文化の彫刻を集めた一室があります。
博物館の前庭にも、チャンパの彫刻が20ほど展示されています。
チャンパ文化はヒンドゥー教の影響を色濃く受けたので、ヒンドゥー教の神々の彫像が目立ちます。
象牙塔遺跡で出土した多くの彫刻
博物館で展示されている彫刻のなかには、象牙塔遺跡で発掘されたものが多く含まれています。
象牙塔を前日に訪問したばかりだったので、とても興味を持って見学しました。
象牙塔で発掘された彫像の中には、蛇の神ナーガの意匠のものが多い。
行者の彫刻も多く目立ちます。
ガルーダやブラーマといった、インドの神様の彫刻もありました。
タップ・ドイ遺跡の彫刻
タップ・ドイの彫刻も1つ展示されていました。
同じ時代(12~13世紀)の彫刻ですが、ほかの彫像が立体的なのに比べて、目立って2次元的な彫刻です。
整理・手入れ中の彫刻群
博物館の裏庭には、整理・手入れしている彫刻なのでしょうか。多くのチャンパ彫刻が一同に集められて並べられていました。
これらも、見学させてもらえます。
正式な展示になっていないとはいえ、正展示のものとはテーマが違う内容のものもあります。
ビンディン博物館のほかの展示
私には、チャンパ彫刻のコレクションがもっとも見ごたえがありました。
ほかのセクションも、ベトナムの歴史と文化に触れられて興味深いです。
ちょっとだけ、紹介します。
ベトナムの民族芸能の衣装やお面
ホー・チ・ミンの生涯を勉強できる展示
博物館の2階には大きな1室があり、ベトナム社会主義共和国の建国の父ホー・チ・ミンの生涯を勉強できるコーナーになっています。
私はベトナム語がわからないので内容を理解できないのですが、多くの写真やホー・チ・ミンの手書きの手紙やノートが展示されていました。
ベトナム戦争の兵器
ベトナム戦争で使用された兵器が展示されています。
機関銃の説明パネルには、戦争末期に投入され米軍機を3機撃ち落としたことが誇らしげに書かれていました。
前庭には、同じくベトナム戦争中に米軍から捕獲した迫撃砲と装甲車も展示されています。
まとめ
ベトナム中部の都市クイニョン周辺にあるチャム塔(チャンパ遺跡)3か所を紹介しました。どれも12~13世紀に建立された歴史のある遺跡です。
- タップ・ドイ クイニョン市街にあり、アクセスが便利。
- 銀塔 クイニョン市街から20㎞ほど。よく整備された遺跡で、美しい主塔は現在も宗教儀式に使用されている。
- 象牙塔 クイニョン市街から約40㎞。高さ最大38mの3基のチャム塔の巨大さは圧倒的。
これらを含むクイニョン周辺のチャンパ遺跡から出土した彫像を多く展示するビンディン博物館を紹介しました。
- 象牙塔遺跡を中心に、多くのチャンパ彫刻を鑑賞できる。
- ほかは、ベトナムの芸能衣装、ホー・チ・ミンの生涯、ベトナム戦争の兵器が展示されている。
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